国道226号線 五位野の未成区間?

旧・谷山市

未成道。
計画されていたものの着手されなかった、はたまた着手されたものの工事半ばで凍結された新道や道路改良をさす言葉です。珍しい存在のようで、実際には私たちの生活のすぐ近くにも大量に眠っているものになります。

例えば、先日鹿児島市では以前より吉野で計画されいた新道計画の一部が正式に廃止。他にも谷山の山田地区などの市道拡幅計画も廃止されました。
並行する高規格道路の整備により工事凍結された国道3号線 市来バイパスや、鹿児島市広域自然遊歩道計画の名残である武岡自然遊歩道などの自然遊歩道も、広義の未成道にあたります。

今回はそんな未成道関連、先日旧・谷山市の五位野地区国道226号線をぶらついていた際に偶然発見した、道路改良が未成に終わったと思わしき区間を軽くご紹介します。
ただし前提として、多くの小規模な未成道同様に情報がほとんど無いため、考察や推測ベースでのご紹介となりますがご容赦ください。また、未成区間であるかどうかも不確定です。

未成区間の名残と思わしき場所の概要

国道226号線の五位野の古屋敷地区JR 指宿枕崎線と並走する区間に、あまりに不自然に路肩の広い区間があります。
距離としては約80m、隣接する未舗装の敷地を含めると約100mほどになる区間です。
一見ただの広めの歩道に見えるかもしれません。しかし、実際にはこの広い路肩のさらに脇に別途歩道が付いています。そのため状況としては、二車線の現在の国道に脇にもう一車線分の敷地がある事になっていました。いざ現地でこの姿を見て、過去に3車線化の改良計画があったのではないかと考えるのは自然な事だと思います。

実際の現地の姿

突如並走する謎の空き地(国道226号)

JR 指宿枕崎線の五位野駅から国道226号線を約200mほど南下したところで、側溝が歩道沿いを離れたかと思えば、不自然な空き地が出現しました。
一見すると旧道のようですが、このあたりは基本的に台地上の平地。現在の国道226号線のルートは整備されて以来ほとんど直線で構成され、このような旧道の生まれる余地はありません。

空き地に建つ建設省の境界杭

空き地には別の道路と垂直に交わる地点がありますが、そこには国道から数メートル離れている場所に建設省境界杭が建っていました。
建設省は現在の国土交通省(平成13年~)の前身組織の一つで、かつての国道の整備等を担っていた組織でもあります。JRの線路沿いに国鉄の『工』境界杭が見られるように、インフラ沿いでは旧管理組織の境界杭が見られる事は珍しくありません。

ここで着目すべきはその位置と年代。この境界杭が建っているのは国道の歩道から数メートル以上離れた場所であり、国道に対して余剰な用地が取得されていた事が判ります。その広さはちょうど車線一本分ほどです。最も、用地にもさまざまありけりなので、一概に未成区間のものとはいえませんが。
そして年代については、この付近の国道226号線には他にもいくつか建設省時代の境界杭がありますが、その多くがより細く小さな一昔前の物となっています。
そのため、この土地に設置された境界杭というのはそれらとは別、後年に何らかの理由で設置されたものと考えるのが自然です。

空き地から舗装路へ

境界杭から小さな空き地を挟んで、突如空間は国道の路肩へ。
空き地との境界部にはガードレールが雑に設置されており、これが最大の未成っぽさを醸し出す理由になっています(未成道では未成区間と既成区間の間にガードレールでのバリケードを設置しがち)。
空き地とその先の路肩は明らかに同じ幅をしており、空き地が道路になるはずだった事はほとんど明らかといっても良いかと。

不自然な路肩

歩道の付帯する、一車線分の路肩。舗装はアスファルトですが、二か所のみ暗渠でもあるのかコンクリート舗装となっていました。実際、この付近の地下には古屋敷川という小川が流れています。
舗装の状況を見るに、もし仮にこれが未成区間の既成部であっても正式な道路として供用された事は無いのではないかと思います。
一見するとバスレーンにも見えますが、歩道の構造や先ほどの空き地の様子からするに「うーん……」といったところです。

路肩が国道に合流

舗装区間は全長約80m。南側の終点は特に未成道っぽさも無く、しかし若干唐突さを思わせる合流地点になっています。
ここより南側は並行する空き地も無く、境界杭も現在の歩道脇に沿っています。強いて言うのであれば、若干駐車場となっている割合が多い程度で顕著な程ではありません。

南側から見た全景

終点側から見てみると、北にいくにつれて若干路肩の幅が広がっているのが分かりました。写真左の茂みはJR 指宿枕崎線。

現地の様子を踏まえ、ここから先は航空写真などを用いた考察を行っていきます。

未成区間?の考察

再度にはなりますが、この未成区間と思わしきナニカについては情報がほとんどありません。そもそも未成区間なのか、何らかの用途の路肩だったのか、はたまたただの工事用地だったのか一切がはっきりしません。探索時は早朝でしたが、それとなく散歩中の方に訊いてみても判明しませんでした。

そこで、伝家の宝刀である航空写真などを使いその正体について考察していきましょう。
妄想成分も多分に含みますし、確定情報はほとんどありませんので、そういう考えもあるんだなー程度に捉えてください。

1962年 -普通の道路
1962年9月の五位野 古屋敷
(出典:国土地理院ウェブサイト
※該当年月航空写真より一部をトリミング加工し利用)

昭和37年9月時点では、今回の場所は普通の国道の一部であり、特に広い路肩等もありませんでした。道筋も現在と一致しており、旧道が現在の路肩となっている事もありません。
このことから、現地で見た境界杭の年代の差からして、あの路肩はやはり後年に何らかの理由で増やされた用地のようです。
なお、国道脇の線はJR(※当時は国鉄)の線路で、その更に左側に並走しているのは現在の国道226号線の前身にあたる街道 山川路の車道(新道)です。それらを全て貫いている濃い線が古屋敷川。

1975年 -既成となった路肩
1975年2月の五位野 古屋敷
(出典:国土地理院ウェブサイト
※該当年月航空写真より一部をトリミング加工し利用)

昭和50年には一転、あの幅広い謎の路肩が既に竣工されています。
また、障子川の一部が暗渠として埋め立てられ、その上に現在の路肩脇の住宅地が造成されているのが分かります。住宅地用に整備された私道にも思えますが、流石にその場合は建設省管理の用地としては扱わないでしょう。大きな住宅地ならまだしもほんの一画です。

さて、この路肩の造成された大体の時期が判明した訳ですが、実はこの時期に五位野地区では大きな変化がありました。そう、昭和47年(1972年)に鹿児島市営の鴨池動物園が市街地から五位野に移転し、平川動物園としてオープンしたのです。これに伴い、今回の路肩より南で分岐する、旧・知覧街道として知られる五位野道がJRとの立体交差に改修され、動物園のアクセス路して整備されました。なお昭和45年(1970年)まではこの国道沿いの古屋敷地区に移転する計画でしたが、用地買収の難航から断念されています。その後すぐに買収完了、起工してから一年ほどでその殆どを整備したというのですから、現代のスピード感では到底真似できない代物です(生きている間に完成しないでお馴染み、鹿児島北バイパスは既にこれの50倍近くの時間がかかっています。実質平川動物園50個分の道です)

鹿児島市道 動物園線(動物園橋)

アクセス路として動物園開園と共に開通した市道 動物園線動物園橋でJRの線路を跨ぎ、その先の国道226号線へと動物園入口交差点にて合流しています。

なぜ長々と動物園の話をしているかといえば、まさに今回の未成区間と思わしき路肩というのが、この動物園へのアクセスの渋滞緩和を目的とした事業だったのではないかという考察が可能なためです。
むしろこの年代に付随して発生した用地に、それ以外の理由を求める方が難しいというのもあります。他の選択肢でいえば、この動物園橋などの工事用地として利用した可能性もありますが、距離にして500m以上離れていますしわざわざこの場所を選ぶメリットもみられません。また、園付近までの路線が開通する以前の動物園アクセスのバス停は、現在の動物園入口交差点付近にあったとされる五位野バス停が案内されているのが昔の資料等から確認できました。その為わざわざバス停のために設けたレーンの痕跡とも考えづらい状態です。

産業道路(鹿児島県道 玉取迫鹿児島港線)

もし仮に渋滞緩和を目的としたものであるならば、なぜ未成に終わったのでしょうか。今でも五位野は渋滞が発生する事はありますし、必要な事業だったと思われます。
しかし、ここで更にもう一つの事業の存在を忘れてはいけません。それが谷山南部の湾岸を埋め立てた工業地帯造成事業およびそれに付随した産業道路の整備です。
二つの県道から成る産業道路、そのうち和田から平川にかけては県道 玉取迫鹿児島港線として昭和51年(1976年)に開通。これによりそれまで国道226号線へ一極集中的に依存していた南下交通に革命が起きました。

つまりこういう仮説です。平川動物園造成に伴い、アクセス路がR226に接続される→R226の渋滞悪化が懸念に。レーンの追加が検討され、実際に着手される→ここで産業道路事業とのバッティングを評価。国も関わる事業であるR226改良の優先度が下がり、80mの既設部と20mの買収済みの用地を残したまま凍結。
ちなみに軸となる七ツ島の埋立の着手は昭和47年(1972年)。なんか1999年にひたすら人類を滅ぼそうと奔走したMMRという漫画を思い出すほどの集束ですが、この年は鹿児島で国体が開催される(太陽国体)など兎に角ヒャッハーな年だった訳です。

スズ
スズ

他の道路が立ち上がって、一度始めた工事を止めちゃうなんてことあるの?

リスリル
リスリル

そんなこと……と思うかもしれないが、実際世の中にはいくつか事例があるんだ。それこそ最初にいわれてた市来バイパスもそうだし、管轄が異なる場合はより起きやすい気がするぜ

鹿児島市道 五位野駅動物園線

しかし疑問は残ります。何故あの場所だけを先行して整備し、また南側の終点はあまり未成感が無いのでしょうか。

先行してあの場所を整備した事には理由は意外にも明白です。意図せず伏線回収みたいになってしまいましたが、あの謎の路肩脇の住宅地はちょうど動物園開園時期に重なって造成されたものでした。
つまりその時点で既に国道226号線の拡幅計画が立ち上がっていたのであればどうでしょう。住宅地造成後に用地を買い取るよりも、先んじて事業者と交渉して拡幅分の用地を獲得しておく方が早いと思いませんか?世の中にはそれを見越して土地を買う狡い方々もいますがそれはまた別のお話。

南側の終点。これについては正直なところ不明です。住宅地部分だけ歩道分を考慮し、それより南は歩道分を除いた幅にするつもりだったという可能性もあれば、改良事業の終点としてあの場所を選んだ可能性もあります(その場合大概意味不明ですが)。
ちなみに奇しくもあの謎の路肩区間というのが、後年に追加で開通したもう一つのアクセス路、鹿児島市道 五位野駅動物園線の起点と同じ場所にあるんですよね。ただしこの道路とは直接の関係は無いと思われます。有り得るとすれば当時からこの場所にアクセス路を設け、同じく跨線橋を架ける計画が在ったとする幻道路説ですが、それもまた跨線橋はループにしないとスペースが足りないですし、古屋敷川があるのでアンダーパスに適した地形でも無いでしょう。第一作ったばかりの住宅地を取り壊してループ橋作ろうと企画する人がいればその人ははっきり言ってイカれてます。

……と、このような形で今回、偶然発見した謎の路肩について考察してみました。
いつだったか、市内の甲突川沿いのガードレールが某なんだコレ番組に取り上げられていた記憶がありますが、それ以上のなんだコレも街中に多く潜んでいるものです。ぜひ皆さんも見つけ、調査し、真価をはかってみてください。

あとがき

本文と全く関係のない話から始まります。カー〇ィのエ〇ライダー、もうすぐの発売ですね。既におためし版が無料で遊べましたが、なかなかにいいものでした。みだりに他プレイヤーを攻撃するゲームでもありませんが、如何せん攻撃時の感触が心地良いようにできているので積極的に攻撃に行ってしまうのが私の悪いところです。

さて、今回は珍しいと珍しくないの間ぐらいにある存在、未成道のうちから未知のものを取り上げました。メインストリートなので知っている方は多そうですがね。
また何か具体的な証拠など出てきましたら、追記していきたいと思います。

リスリル
リスリル

ちなみにこのあたりの道路の歴史は複雑でな。現在の国道226号線に並走する山川路は近代車道に近いもので新たに整備され、それ以前の山川路はより海側を通っていたぜ。その名残の廃踏切が残っていたりもするな

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